輝かしい新幹線の成功の裏側で、その運営母体である国鉄は、深刻な財政危機に陥っていました。1980年代には、国鉄の長期債務は約37兆円という天文学的な額に膨れ上がり、日本の財政を圧迫する「お荷物」となっていました。
国鉄赤字の構造的な原因と解体の英断
国鉄が巨額の赤字を抱えた原因は、単なる経営不振ではなく、国策がもたらした構造的な問題が複合していました。
- 不採算路線の維持義務: 政治的な要請により、採算の見込めないローカル線を廃止できず、赤字が垂れ流し続けた。
- 非効率な組織と人件費: 巨大で非効率な組織構造と、政治的介入も絡んだ過剰な職員数(最盛期約40万人)が、経営を圧迫。
- 輸送シェアの低下: 高度成長期に整備された道路網により、機動性の高いトラック輸送に貨物輸送の需要を奪われた。
この危機を断ち切るため、1987年、国鉄は地域ごとに分割され、JRグループとして民営化されました。
37兆円の負債の行方と国民の負担
では、民営化時にこの37兆円の借金はどうなったのでしょうか?
一部の借金は国民が負担する形となりました。
- JR各社への継承: 新幹線などの優良資産に見合う約14兆円の債務は、JR各社に引き継がれました。
- 国民負担となった債務: 残りの約23兆円は、「国鉄清算事業団」が引き受け、旧国鉄の土地や株の売却益で返済する計画でした。しかし、バブル崩壊などで売却は難航し、清算事業団の債務は最終的に国の一般会計で処理されることになりました。
国鉄の解体は「英断」でしたが、その負債は「負の遺産」として、国民が分かち合うことになったのです。
採算を超えた現代の鉄道の社会的価値
国鉄解体という苦難を乗り越えた日本の鉄道は、今、採算性や効率化を超えた新たな価値を確立しています。それは「持続可能性(サステナビリティ)」への貢献です。
- 環境性能の優位性: 輸送機関の中で鉄道は圧倒的に環境負荷が低いことが証明されています。貨物輸送では、営業用トラックと比較して輸送トンキロあたりの$\text{CO}_2$排出量が約8分の1という、極めて優れた環境性能を誇ります。
日本の鉄道は、戦後の奇跡的な経済成長を支える大動脈としての「功」を果たしましたが、国鉄の巨額な負債と不採算路線の維持という「負の遺産」も残しました。民営化という試練を経て、その役割は、単なる移動手段から、環境に優しい持続可能な社会の基盤へと進化しています。






