70代を迎えられ、これからのことについて様々なお考えをお持ちのことと思います。特に、ご自身の財産や、もしもの時に備えての医療に関する選択は、ご家族にとっても大切なことでしょう。
今回は、そんな皆様に知っていただきたい「家族信託」についてお話しします。しかし、その前に、少しだけ「遺言」について触れておきましょう。
遺言は書いていますか?
「遺言」と聞くと、亡くなった後の話だから、まだ早いと思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、遺言はあなたが残したい財産を、誰に、どのように渡すかを明確にするための大切な意思表示です。もしもの時、ご自身の意思が残されていないと、残されたご家族がどのように財産を分けたら良いか迷ってしまうケースも少なくありません。
もしかしたら、すでに遺言を準備されている方もいらっしゃるかもしれません。もしそうであれば、素晴らしいことです。ご自身の意思が明確になっていることで、ご家族の負担を減らすことができるからです。
遺言と家族信託、何が違うのでしょう?
遺言と家族信託は、どちらもご自身の財産に関する意思表示を、未来につなぐための方法です。しかし、この二つには、その効力が発揮されるタイミングと、目的において大きな違いがあります。
遺言は、あなたが亡くなった後にその効力が生じます。つまり、遺言は「私が亡くなった後、この財産は誰にどうしてほしい」という、死後の財産の分配について、あなたの意思を伝えるためのものです。そのため、もしあなたが認知症などで判断能力が低下した場合、遺言があっても預貯金が凍結され、ご自身の生活費や医療費が使えなくなる、といった生前の財産管理の問題には対応できません。あくまで、あなたが亡くなった後の話、ということになります。
一方、家族信託は、あなたが元気なうちから効力を持たせることも可能です。これは、あなたの財産を信頼できるご家族に託し、あなたの決めた目的に沿って管理・運用してもらう仕組みだからです。例えば、あらかじめ信託契約を結んでおけば、もしあなたが認知症になったとしても、契約で指定されたご家族があなたの財産を管理し、あなたの望むように使うことができます。これにより、生前の生活費や医療費の支払いに困ることがなく、また、あなたが元気なうちに決めたことが、判断能力が低下した後もスムーズに実行されます。さらに、あなたが亡くなった後の財産の分配についても、信託契約の中で定めておくことが可能です。
簡単に言えば、遺言が「死後の財産の行き先を決めるもの」であるのに対し、家族信託は「生前からの財産管理と、もしもの時に備える安心を提供するもの」と考えると、違いが分かりやすいかもしれません。家族信託は、遺言ではカバーしきれない「認知症対策」としての側面を強く持っているのです。
家族信託って、どんな仕組み?
「信託」と聞くと、なんだか複雑に感じるかもしれません。簡単に言えば、あなた(委託者)が持っている財産(預貯金2,000万円、そしてご自宅)を、信頼できるご家族(受託者)に託し、あなたの決めた目的に沿って管理・運用してもらう仕組みです。そして、その財産から生じる利益を受け取るのは、あなたや、あなたが指定した方(受益者)になります。
なぜ今、家族信託を考えるべきなのでしょう?
例えば、認知症になってしまった場合、預貯金が凍結されて生活費や医療費の支払いに困る、といった話を聞いたことはありませんか。ご自身の財産であっても、判断能力が低下すると、ご自身で管理することが難しくなるだけでなく、ご家族も代わりに手続きができなくなるケースがあるのです。
家族信託をしておけば、あなたが認知症になったとしても、あらかじめ指定したご家族があなたの財産を管理し、あなたの望むように使うことができます。これにより、
- 生活費や医療費が滞りなく支払われる
- ご家族が財産管理で困ることが少なくなる
- あなたが元気なうちに決めたことが、しっかりと実行される
といったメリットがあります。
あなたの財産と家族信託
あなたには現在、預貯金が2,000万円、そしてご自宅の土地(実勢売買価格1,500万円程度)があります。お子さんが3人いらっしゃるとのこと、ご自身の残される財産について、様々な想いがあるのではないでしょうか。
例えば、
- 自宅は、もしもの時にどうしたいですか?(実勢売買価格1,500万円で売却するのか、誰かに引き継ぐのかなど)
- もし建物を解体して売却する場合、解体費用がかかることも考慮に入れる必要があります。
- 預貯金は、もしもの時に、ご自身の医療費や生活費、そして最終的に残った場合にどう分配したいですか?
こうしたことを、家族信託で具体的に決めておくことができます。
終末期医療や尊厳死、そして「墓じまい」について
そして、あなたが気にされている終末期医療や尊厳死について。延命治療は望まないというお気持ち、とても大切です。家族信託は、財産のことだけでなく、ご自身の「想い」も託せるのが大きな特徴です。
例えば、信託契約の中に「もし認知症などで意思表示ができなくなった場合、延命治療は行わない」といった条項を盛り込むことも可能です。もちろん、これには医療機関との事前の相談や、法的側面からの検討も必要になりますが、あなたの強い意志をご家族に伝え、実行してもらうための一つの方法となり得ます。
さらに、近年増えている「墓じまい」についても、家族信託であなたの意思を明確にすることができます。 「ご先祖様から受け継いだお墓を、将来的にどうするべきか悩んでいる…」 「子供たちに、お墓の管理で負担をかけたくない…」 そうお考えの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
家族信託の契約の中に、「私が亡くなった後、私が所有するお墓の墓じまいを行い、散骨または永代供養とする費用として、信託財産の中から〇〇万円を支出することを依頼する」といった形で、具体的な指示と、それに伴う費用を盛り込むことが可能です。これにより、あなたの想いが明確になり、ご家族も迷うことなく手続きを進めることができます。
家族信託は、あなたとご家族の「安心」のために
家族信託は、あなたの財産を管理するだけでなく、あなたの「こうしたい」という想いを未来へつなぎ、残されたご家族が困らないようにするための、とても有効な手段です。
初回は、遺言との違いも踏まえ、家族信託の概要と、あなたの財産・想いを託せる可能性についてお話ししました。このテーマは人生の終盤において、とても重要なことになりますので、シリーズ化していいきたいと思います。次回以降は、さらに具体的な家族信託の活用方法などについても、ご紹介したいと思います。
ご自身の人生の終盤を、安心して、そして納得のいく形で過ごすために、家族信託を勉強してみてはいかがでしょうか。
ご自身の家族構成や財産状況に合わせた具体的な家族信託の設計は、専門家と相談しながら進めるのが最も安心です。いつでもお気軽にご相談ください。