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2025[Thu]
07.03

第4回:「松阪木綿」大ヒットの秘密~倹約令がもたらしたファッション革命~

紀州街道伊勢路歴史


皆さん、こんにちは!旧長谷川治郎兵衛家巡り、第4回です。前回は、長谷川治郎兵衛家がお茶の御茶人としてだけでなく、松阪木綿の商いにも深く関わっていたことについてお話ししました。今回は、その「松阪木綿」が、なぜこれほどまでに全国的な大ブームを巻き起こしたのか、その最大の秘密に迫りたいと思います。キーワードは「倹約令」です。

幕府の「倹約令」とは?

江戸時代、幕府は度々「倹約令」という法令を発布しました。これは、贅沢を禁じ、質素倹約を国民に奨励するものでした。幕府がこのような法令を出す背景には、度重なる飢饉や災害、そして大名家や武士階級の財政悪化など、様々な社会経済的な問題がありました。特に、庶民の暮らしが豊かになり、華やかな文化(例えば元禄文化のような)が花開くと、幕府はそれを「風紀の乱れ」と捉え、身分秩序を維持するためにも、取り締まりを強化しようとしました。

倹約令は、衣食住のあらゆる面に及びました。衣料品に関しては特に厳しく、絹のような高価な素材や、派手な色柄、金糸・銀糸を使った豪華な装飾品の着用が厳しく制限されることが多かったのです。これに違反すると、罰金や、時には財産没収、身分剥奪などの厳しい罰が科せられることもあり、庶民は日々の着る物にも細心の注意を払い、頭を悩ませるようになりました。

「松阪木綿」が時代のニーズに合致!~地味と粋の融合~

このような厳しい時代背景の中で、松阪木綿はまさに「渡りに船」のごとく、庶民の間に爆発的に浸透していきました。その理由は以下の通りです。

  1. 倹約令に適合する素材: 絹が禁じられる中で、木綿は庶民の普段着として最も適した素材でした。松阪木綿は、丈夫で肌触りが良く、洗濯にも非常に強いため、日々の着用に耐え、長く使える実用性に優れていました。これは、衣類を頻繁に買い替えることのできなかった当時の庶民の生活に、まさに合致していました。
  2. 地味だが粋な「松阪縞(まつさかじま)」: 倹約令は派手な色柄を禁じましたが、地味な色合いであれば許容されました。松阪木綿の代名詞ともいえる「松阪縞」は、藍を基調とした地味な色合いの中に、絶妙な細い縞模様をあしらったものでした。これが、「地味だけど、よく見るとおしゃれで粋だね!」という、当時の庶民のファッション感覚にぴったりハマったのです。
    • 「粋」の文化の象徴: 江戸時代、特に町人の間では「粋(いき)」という美意識が重視されました。これは、露骨な贅沢はせず、さりげなく、しかし洗練されたセンスを表現するというものです。松阪縞の落ち着いた藍色と、細く複雑に織りなされた縞柄は、この「粋」の精神をまさに体現するものでした。外見は質素に見えつつも、細かい部分にこだわりを見せる。まさに、幕府の目を気にしつつも、ファッションを楽しみたいという庶民の願いを叶えるアイテムだったのです。
  3. リーズナブルな価格と高い耐久性: 絹に比べて木綿は安価で、庶民でも手に入れやすい価格でした。加えて、その高い耐久性は、買い替えの頻度を減らすことができ、結果的に家計を助けることにもなりました。品質が良いのに手頃な価格であることは、経済的に厳しい状況にあった人々にとって、非常に大きな魅力でした。

  1. 「伊勢土産」としてのブランド力: お伊勢参りの土産として、松阪木綿は全国へと広まっていきました。旅先で手に入れた高品質な木綿は、旅の思い出だけでなく、日々の暮らしで長く愛用できる実用品として重宝されました。土産物としての人気は、そのまま松阪木綿のブランド力を高め、需要をさらに拡大させることになりました。
    • お伊勢参りは当時の庶民にとっての一大イベントであり、そこで買う土産品には特別な価値がありました。「松阪の木綿」は、単なる衣料品以上の意味を持っていたのです。
  2. 長谷川治郎兵衛家の信用力: 旧長谷川治郎兵衛家は、紀州藩の御茶人という公的な立場にあったため、その信用力は絶大でした。彼らが扱う松阪木綿は、品質が保証されているという安心感があり、これがさらに多くの消費者の支持を得る結果となりました。

このように、幕府の倹約令という逆境が、皮肉にも松阪木綿を国民的ファッションアイテムへと押し上げる大きな要因となったのです。長谷川治郎兵衛家は、まさにその時代の潮流を読み解き、ビジネスチャンスを最大限に活かした先見の明を持っていたと言えるでしょう。 次回、最終回では、現在に残る旧長谷川治郎兵衛家の姿をじっくりと観察し、当時の人々の暮らしや文化、そして街道の賑わいに思いを馳せてみたいと思います。



シニア向け住宅アドバイザー ライター:添田 浩司

宅地建物取引士、管理業務主任者、ビル経営管理士といった国家資格を有する現役の不動産コンサルタントです。安心安全な住まい、日々の健康や、自分らしい暮らしに役立つ情報、地域の話題などを、様々な視点から配信していきます。

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