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Machi Guide
街ガイド
2025[Thu]
07.03

第5回:今に残る旧長谷川治郎兵衛家の面影~歴史の息吹と街道の賑わいを体感する~

紀州街道伊勢路歴史





皆さん、いよいよ旧長谷川治郎兵衛家巡りも最終回です!これまでは、松阪になぜ紀州藩の飛び地があったのか、長谷川治郎兵衛家がお茶の御茶人として、また松阪木綿の商いを通じてどのように栄えたのか、そして倹約令が松阪木綿の大流行にどう影響したのかを探ってきました。最終回となる今回は、実際に現在の旧長谷川治郎兵衛家に足を踏み入れ、その歴史の息吹を肌で感じ、当時の人々の暮らしや文化に思いを馳せてみたいと思います。

現在、松阪市指定文化財として大切に保存されている旧長谷川治郎兵衛家は、紀州藩の御茶人という重要な役職を担っていた家の格式と、長きにわたり街道の歴史を見守ってきた趣を今に伝えています。


邸宅に息づく「格式」と「生活」の痕跡

旧長谷川治郎兵衛家の門をくぐると、まずその広々とした敷地と、重厚な建物に目を奪われます。これは、紀州藩の要職を担っていた家の格式を如実に示すものでしょう。


  • 堂々たる門構えと式台(しきだい): 格式の高い屋敷には必ず設けられていた「式台」は、身分の高い客人が馬や駕籠から降りる際に利用する踏み台です。旧長谷川治郎兵衛家が単なる個人の住居ではなく、紀州藩の公的な役割を担っていたことを物語っています。紀州藩の役人、時には江戸からの重要な使者などもこの式台から邸内へと足を踏み入れたことでしょう。この式台に立つと、当時の人々が感じたであろう緊張感や期待感が伝わってくるようです。
  • 上質な普請(ふしん)と匠の技: 屋敷の構造、使われている木材、そして随所に施された丁寧な建具や意匠からは、当時の最高の建築技術と職人の技が感じられます。良質な木材を選び、丁寧に加工された柱や梁、そして磨き上げられた床板の一つ一つが、長谷川治郎兵衛家の豊かな財力と、来客をもてなす上での細やかな配慮を物語っています。例えば、建具の引き手金具一つとっても、さりげない意匠が凝らされており、当時の一流の職人が手掛けたことがうかがえます。
  • 趣のある庭園: 美しく手入れされた庭園は、四季折々の表情を見せ、見る者の心を和ませます。当時も、この庭を眺めながらお茶を楽しみ、あるいは商談の合間に一息ついていたのかもしれません。庭の配置や植栽にも、茶の湯の精神や、自然との調和を重んじる日本古来の美意識が息づいていることでしょう。池に泳ぐ鯉の姿や、風に揺れる木々の音を聞きながら、江戸時代にタイムスリップしたような感覚を味わえます。
  • 茶の湯の空間: 御茶人としての長谷川治郎兵衛家ですから、邸内には茶室や茶道具を保管する空間など、茶の湯の文化を色濃く残す場所が見られます。ここで、お客様をもてなし、また藩の要人たちと密談が交わされたこともあったかもしれません。静寂に包まれた茶室に身を置くと、当時の人々が精神統一を図り、一服の茶に心を込めた様子が目に浮かびます。

「茶」と「木綿」が結びつけた文化交流と商いの場

旧長谷川治郎兵衛家は、まさにお茶と木綿という二つの主要事業が交差する場所でした。

  • お茶の香りとビジネス: 茶室や茶道具だけでなく、お茶の保管場所や加工の場所も邸内にあったことでしょう。良質なお茶がここから紀州藩へと運ばれ、そして将軍家へと献上されていった様子が想像できます。その香りが、この邸宅の隅々まで満ちていたに違いありません。
  • 木綿の賑わいと商談: そして、松阪木綿。邸内の一角には商談のための空間や、織り上がった木綿製品を保管する蔵などもあったはずです。お伊勢参りの旅人たちが、土産としてこの高品質な松阪木綿を買い求め、全国各地へとその名を広めていった姿が目に浮かびます。活発な商談が行われ、松阪木綿の品質やデザインが議論されたり、新しい柄の流行が生まれたりしたかもしれません。蔵の中には、所狭しと積み上げられた反物が、当時の繁栄を物語っていたことでしょう。

街道文化の「生き証人」としての旧長谷川治郎兵衛家

旧長谷川治郎兵衛家は、かつて大動脈であった紀州街道のすぐそばに位置しています。邸宅の窓から外を眺めれば、かつて大勢の旅人が行き交ったであろう街道の風景が広がります。

江戸時代、特に「おかげ参り」の最盛期には、一日あたり数千人もの人々がこの道を行き交い、松阪の宿場町は文字通り眠らない町でした。人々は朝早くから旅支度を始め、夜遅くまで宿場のにぎわいが続きました。旧長谷川治郎兵衛家は、そんな歴史の渦中にあって、多くの旅人を受け入れ、地域の文化や経済の中心として機能していました。旅の疲れを癒し、次への活力を得る場として、人々にとってどれほど重要だったことでしょう。当時の人々がこの前を通るたびに、立派な建物に目を奪われ、紀州藩の御茶人であり、松阪木綿の豪商でもある長谷川治郎兵衛家の存在感をひしひしと感じていたに違いありません。

現在の静かな佇まいからは想像しにくいかもしれませんが、かつてここには、お茶の香りと木綿のざわめき、そして旅人たちの話し声や笑い声が満ち溢れていたのです。


いかがでしたでしょうか?全5回にわたって松阪の旧長谷川治郎兵衛家を巡ってきましたが、単なる古いお屋敷ではなく、紀州藩の歴史、お伊勢参りの賑わい、幕府の政策、そして松阪の産業を支えた人々の暮らしが詰まった、まさに「歴史の宝庫」であることがお分かりいただけたかと思います。

ブラタモリさんの番組のように、一見すると何でもない場所にも、深く掘り下げると面白い物語が隠されています。松阪にお越しの際は、ぜひ旧長谷川治郎兵衛家にも足を運んでみてください。きっと、ここでしか味わえない歴史の息吹を感じることができるはずですよ。

シニア向け住宅アドバイザー ライター:添田 浩司

宅地建物取引士、管理業務主任者、ビル経営管理士といった国家資格を有する現役の不動産コンサルタントです。安心安全な住まい、日々の健康や、自分らしい暮らしに役立つ情報、地域の話題などを、様々な視点から配信していきます。

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