三重県津市の南東端、伊勢湾に面したデルタ地帯にある「香良洲町」。 かつて海運で栄えたこの静かな町に、伊勢神宮と深い関わりを持つ神社が鎮座しています。
「香良洲神社」。

ここにお祀りされているのは、天照大神(アマテラスオオミカミ)の妹神である、稚日女尊(ワカヒルメノミコト)。 姉神がいらっしゃる伊勢神宮の方角を向き、静かに祈りを捧げることができる、知る人ぞ知る聖地です。
今回は、潮風と松林に包まれた、この神社の静謐な時間を綴ります。
津市の中心部から車を走らせ、橋を渡って香良洲町へ。 この町は雲出川と海に囲まれ、どこか「島」のような独特の旅情を感じさせます。
神社の入り口に立つと、まず迎えてくれるのは立派な松林です。 伊勢湾からの風が松の枝を揺らし、ザザッという音が響く。参道を歩いているだけで、少しずつ日常の澱が払われていくような感覚になります。
境内にて、「小烏神」の伝説に触れる
境内を進みますと、「小烏神(おからすのかみ)」と刻まれた石が鎮座しているのを見つけました。

「香良洲(からす)」という地名の由来とも言われる伝説が、ここには残っています。 言い伝えによれば、大和の国から神様がこの地へ移られる際、カラス(八咫烏とも言われます)が先導して案内をしたとのこと。
この石は、そんな神話の記憶を今に伝えるものなのでしょう。 「カラス」はただの鳥ではなく、神様の使い。この石の前で足を止めると、ここが神話の時代と地続きであることを改めて実感させられます。
質実剛健、心が落ち着く社殿
参道を抜けると、目の前に現れるのは、華美な装飾を削ぎ落とした、荘厳な社殿です。

木の温かみと歴史を感じさせる、落ち着いた佇まい。 派手さはありませんが、それゆえに周囲の緑や空の青さと調和し、神聖な空気が漂っています。
御祭神の稚日女尊(ワカヒルメノミコト)は、天照大神の妹神。 女性の守り神としても篤く信仰されており、安産や縁結びを願う人々が後を絶ちません。姉神の強烈な太陽の光に対し、こちらは夕凪のような優しさを感じる神様です。
朱色の鳥居を抜けた先に
本殿への参拝を終え、境内を散策していると、緑の中に鮮やかな朱色が目に留まりました。 何本もの小さな朱色の鳥居が、奥へと続いています。

吸い込まれるようにその鳥居をくぐり、一歩一歩進んでいく。 日常とは違う空間へ足を踏み入れるような、不思議な高揚感があります。
朱色のトンネルを潜り抜けると、そこにはまた別の静寂が待っていました。
木漏れ日の中にひっそりと鎮座するお社。 ここには、商売繁盛の神様であるお稲荷さん、そして「大國社(だいこくしゃ)」というお社が並んでいます。 大國社には、縁結びや福の神として知られる大国主命(オオクニヌシノミコト)がお祀りされています。
妹神様の境内で、福の神様にも出会える。 なんだか得をしたような、温かい気持ちになれる場所です。
姉神を想う場所「神宮遥拝所」
そして、境内でもう一つ紹介したい場所があります。 それが「神宮遥拝所」です。

小さなお社のような形をしたこの場所は、ある特定の方角を向いて建てられています。 その先にあるのは、伊勢神宮。
つまり、ここから姉である天照大神がいらっしゃる伊勢に向かって、手を合わせることができるのです。 妹神であるワカヒルメノミコトも、こうしてここから姉神を想っておられるのでしょうか。
旅の終わりに参拝を終え、神社の裏手にある香良洲海岸へ出ると、穏やかな伊勢湾が広がっていました。
伊勢神宮の賑わいとは対照的に、静寂と安らぎに満ちた香良洲神社。 鳥居の先の静けさや、遥拝所から感じる姉妹神の絆。 ここには、訪れた人にしかわからない、ゆったりとした神話の時間が流れています。






