皆さん、こんにちは。春日神社を巡る旅も、いよいよ最終章です。 第1話では神社の過去と、二つの神様が共存する不思議な成り立ちを。第2話では、世界に轟く石取祭の熱気と起源に迫りました。

さて最終回となる今回では、この神社の「現在」を、もう少し深く見ていきたいと思います。信仰の場でありながら、人々の暮らしに溶け込み、豊かな食文化さえ育んできた、その秘密を探りましょう。
まずは、境内をじっくりと見てみましょう。この場所には、長い歴史を物語る、たくさんの小さな物語が隠されています。


さあ、皆さんが拝殿の前に立って、まず目に留まるのは、立派な狛犬です。よく見ると、何かをお気づきになるかもしれません。
一般的な神社の狛犬は、口を開けた「阿」と、口を閉じた「吽」の形をしています。しかし、桑名宗社の狛犬は、どちらも口を閉じ、玉を抱えています。
この狛犬は口を閉じています。それはなぜしょうか?これは、古くからこの地を守る神聖な存在として、「言わざる」、つまり口を慎む姿勢を表していると言われています。人々の願いを静かに聞き入れ、町の安寧を黙って見守る。そんな力強い願いが、この狛犬には込められているように感じられます。
境内の美しさといえば、手水舎も印象的でしたね。苔むした屋根には小さな千木(ちぎ)と鰹木(かつおぎ)が載せられ、神聖な場所であることを静かに物語っています。この手水舎から水が流れ落ちる音もまた、この場所の静けさと、変わらぬ時の流れを物語っています。

そして、この境内をさらに奥に進むと、知る人ぞ知る、由緒ある場所があります。拝殿の裏手に回ってみてください。ひっそりと佇む、小さな社。その手前に、三つの鳥居が合体したような、不思議な形の「三ツ鳥居」があります。
これは、神社の本殿にも見られる格式高い造りで、この場所が、神社の始まりである「伊多賀の神」を祀る、最も神聖な場所であることを示しています。苔むしたその姿からは、途方もない年月を経て、今もなお大切に守られている人々の想いが伝わってきます。
さて、春日神社が単なる信仰の場に留まらないのは、その周辺に広がるグルメと文化にも理由があります。この神社は、人々の生活の中心であり、美味しいものが集まる場所でもありました。
神社の参道沿いには、いくつもの老舗が軒を連ねています。中でも、特に有名なのが「安永餅」ですね。細長い形をした薄い餅の中に、上品なこしあんが入った、桑名を代表する銘菓です。
この安永餅、単なるお土産ではありません。その歴史は古く、江戸時代に東海道を旅する旅人たちの間で評判となり、桑名宿の名物として定着しました。七里の渡を前に、この安永餅を食べて旅の疲れを癒し、英気を養った旅人も多かったことでしょう。
「ブラタモリ」風に一つ、不思議なことを考えてみませんか?安永餅の賞味期限は、製造日から数えて3日です。にもかかわらず、この安永餅は三重県内のどこに行っても、主要な駅や百貨店で手に入ります。なぜ、これほどの広範囲な販売網を維持できるのでしょうか?
個人的な想像ですが、夜間~早朝に製造し、県内の主要なターミナル駅や各百貨店やスーパー、高速道路のインターへ、順次配送しているのではないかと考えます。安永餅は、昔から変わらぬ味を守りながら、現代の流通システムを巧みに活用し、短い賞味期限でもその名声を保ち続けていることが驚きです。
もう一つ、桑名を語る上で欠かせないグルメがあります。それが「蛤」です。七里の渡の向こうに広がる伊勢湾は、質の良い蛤がとれることで有名です。桑名の蛤は、江戸時代から将軍家への献上品とされるほどでした。
しかし、現在、国内で天然の蛤が漁獲できる場所は、全国的にも数えるほどしか残っていません。漁獲量の激減により、日本の蛤は非常に貴重な存在となっているのです。そんな中で、ここ桑名では、今も大切に蛤漁の伝統が守られています。
春日神社の近くにも、そんな貴重な蛤料理を味わえる老舗がいくつもあります。例えば、「魚重楼」や、うどん料理で有名な「歌行燈」などです。焼き蛤、時雨煮、そして蛤うどんなど、それぞれの店で蛤を最高の形で味わうことができます。
そして、境内の静かな一角に、現代の憩いの場がありますね。こちらは、季の葉というレストランとカフェを融合したようなお店です。
歴史ある境内の中に、こんなにモダンで落ち着いた空間があるんですね。今の季節なら、Instagramでも映える、もものパフェがおすすめです。歴史をじっくりと巡った後に、贅沢なもものパフェをいただく。なんとも素敵な時間だと思いませんか?
このカフェは、昔ながらの伝統を大切にしつつ、新しい時代の息吹も取り入れる、今の桑名の姿を象徴しているのかもしれません。
春日神社を訪れるたびに、新たな発見と感動がある。それは、この場所が単なる観光地ではなく、桑名という町の生きた歴史、そして人々の暮らしそのものであるからです。狛犬が静かに見守り、苔が時間を語り、美味しい餅が旅人を迎え、そして新しいカフェが憩いを提供する。この場所こそが、桑名の過去と現在、そして未来を繋いでいるのかもしれません。
さあ、春日神社の旅を終え、次回はすぐ隣に佇む、明治・大正ロマンの香りが漂う六華苑へと向かいます。どうぞ、お楽しみに!






